自主制作映画でセリフが聞こえない理由|役者の声量差とMAで起きる問題
- Sound Reformer / yamakaWA

- 6月25日
- 読了時間: 7分
自主制作映画の整音・MAをしていると、改めて気づくことがあります。
それは、役者の声量差は、撮影後のMA作業にかなり大きく影響するということです。
先日担当した映画作品は、キャストのほぼ全員がプロの役者さんでした。
これが本当にやりやすかった。

もちろん録音状態や現場環境にもよりますが、しっかり演技を勉強されている役者さんは、声の出し方、言葉の届かせ方、間の作り方が安定しています。
結果として、セリフが環境音に埋もれにくく、後の整音・MAでも自然な形で仕上げやすくなります。
一方で、自主制作映画では、どうしても一部の役に演技経験の少ない方や、いわゆる素人さんが入ることがあります。
もちろん、作品づくりの事情としてはよく分かります。
友人に出演してもらう。
スタッフが兼任する。
小さな役だから身近な人にお願いする。
低予算の自主制作映画では、むしろ自然なことだと思います。
ただ、MAエンジニアの立場から見ると、ここに大きな音の落とし穴があります。
プロ役者と素人役者では、声の届き方が違う
プロの役者さんは、ただ大きな声を出しているわけではありません。
声量、発声、滑舌、息の使い方、言葉の立ち上がり。
これらが演技の中でかなりコントロールされています。
そのため、マイクとの距離が多少あっても、セリフの芯が残りやすい。
一方で、演技経験の少ない方は、自然に喋ろうとするほど声が小さくなったり、語尾が落ちたり、環境音に埋もれたりしやすくなります。
特に屋外ロケでは、
車の走行音
風
空調
人通り
店舗や住宅街の生活音
遠くの工事音
などが常に鳴っています。
その中で声の芯が弱いと、後から整音で持ち上げても、声だけでなく周囲の環境音まで一緒に上がってきます。
つまり、単純に音量を上げれば解決するわけではありません。
環境音に埋もれた声を後から直す難しさ
よくある誤解として、
「声が小さければ、後で大きくすればいい」
という考え方があります。
これは半分正しく、半分間違っています。
録音されている声の情報がしっかり残っていれば、整音で聞き取りやすくすることは可能です。
しかし、セリフと同じ帯域に車の音、風、空調、反響などが重なっている場合、声だけを完全にきれいに抜き出すことは簡単ではありません。
無理にノイズを削ると、声が細くなったり、機械的に聞こえたり、演技の自然さが失われることがあります。
特に演技経験の少ない方の声は、もともとの発声が弱く、言葉の輪郭も曖昧なことがあります。
そこに強いノイズ処理を加えると、音質上の違和感と演技上の違和感が重なってしまいます。
これはMA時にかなり苦労するポイントです。
4〜5人の会話シーンは、さらに難易度が上がる

もうひとつ難しいのが、4〜5人の会話シーンです。
複数人が同じ場所で話している場面では、ブームマイクやガンマイクに、声の大きい役者さんのセリフが強く入ります。
すると、主役や声の大きい人の声が全体を支配してしまい、声の小さい人のセリフが相対的に埋もれます。
この状態で後から声の小さい人だけを上げようとしても、同じマイクに入っている他の人の声や環境音も一緒に持ち上がります。
つまり、
大きい声の人はさらに目立つ(他の役者のマイクからも声を拾う)
小さい声の人は環境音(反響音)ごと上がる
全体のバランスが崩れる
ノイズ処理を強くすると不自然になる
という問題が起きます。
会話劇は一見シンプルに見えますが、音の面ではかなり繊細です。
スキルの高いMAエンジニアでもまあまあ、難所と感じる部分であり、
ドラマ系の映画作品に初めて挑戦するエンジニアやMAエンジニアを入れずに編集している監督が自然なクオリティに仕上げるのは簡単ではありません。
撮影現場でできる一番現実的な対策
では、どうすればよいのか。
一番現実的なのは、撮影時点で声量差を認識しておくことです。
演技経験の少ない方に対して、無理に舞台のような大声を出してもらう必要はありません。
ナチュラルな芝居を大切にしたい監督の意図も、もちろん理解しています。
ただし、音声的には、
「この人は少し声が小さい」
「語尾が落ちやすい」
「環境音に埋もれやすい」
ということを、撮影時点で把握しておくことが重要です。
対策としては、以下が考えられます。
ラベリアマイクのゲインを少し上げる
ブームマイクをできるだけ近づける
声が小さい役者の立ち位置を工夫する
本番前に声量差を確認する
環境音が大きい場所ではテイクごとに確認する
重要なセリフだけでも別テイクやオンリーを検討する
特にラベリアマイクを使える現場では、声量差のある役者さんだけ少し入力レベルを調整することで、後のMA作業がかなり楽になることがあります。
「自然な芝居」と「聞こえるセリフ」は両立できる
ここで誤解してほしくないのは、私は「全員もっと声を張るべき」と言いたいわけではありません。
映画では、静かな芝居や、小さな声のニュアンスが大切な場面もあります。
無理に声を張らせることで、演技の自然さが壊れることもあります。
ただ、映画は観客に届いて初めて成立します。
どれだけ良い芝居でも、セリフが環境音に埋もれてしまうと、観客は内容を追えなくなります。
だからこそ、撮影現場では
「この芝居を自然に残すために、音声側ではどう受けるか」
という考え方が必要です。
声を張らせるのではなく、マイク位置、ゲイン、立ち位置、環境音、オンリー収録で支える。
これが理想だと思います。
MAでできること、できないこと

整音・MAでは、収録された音声をできる限り聞き取りやすく整えます。
セリフの明瞭化
音量差の調整
ノイズ軽減
こもりの補正
背景音の整理
BGMとのバランス調整
こうした作業によって、作品の印象はかなり変わります。
ただし、録音時点で声が環境音に強く埋もれている場合、後処理には限界があります。
特に、声の芯が弱い状態で収録されていると、ノイズを下げてもセリフの説得力そのものが戻らないことがあります。
MAは魔法ではありません。
だからこそ、撮影時点で少しだけ音のことを意識しておくと、作品の完成度は大きく変わります。
自主制作映画ほど、撮影前に音の想定をしておきたい
自主制作映画では、予算も時間も限られています。
だからこそ、撮影後にすべてを整音で解決しようとすると、工数も費用も大きくなりがちです。
逆に、撮影時点で少しだけ音声設計ができていれば、後のMAで作品として整えやすくなります。
特に確認しておきたいのは以下です。
声の小さい役者はいないか
複数人の会話で声量差が大きくないか
屋外ロケで環境音に埋もれないか
ラベリアマイクの入力レベルは適切か
ブームマイクが十分近づけられるか
オンリー素材を録る時間があるか
重要なセリフだけでも予備テイクを残せるか
このあたりを意識するだけで、後の整音・MAの難易度はかなり変わります。
まとめ|セリフが聞こえる映画は、撮影時点から始まっている
自主制作映画で「セリフが聞こえない」と感じる原因は、マイクやノイズだけではありません。
役者の声量差。
発声の安定感。
複数人会話でのバランス。
環境音との関係。
録音時のゲイン設定。
これらが重なって、後のMAの難易度を大きく左右します。
プロの役者さんが揃った作品が整音しやすいのは、単に声が大きいからではありません。
言葉が届く。
声の芯がある。
演技の中で音として成立している。
その差が、MAの現場でははっきり出ます。
もちろん、すべての作品で理想的なキャスティングや録音環境を用意できるわけではありません。
それでも、撮影時点で少しだけ声量差とマイク設計を意識しておくことで、完成後の映画の聞こえ方は大きく変わります。
セリフが自然に届くこと。
それは、映画の完成度を支えるとても大切な要素です。
映画の整音・MAをご検討中の方は、現在の素材状態や気になるシーンをお知らせください。
撮影済みの音声でも、どこまで改善できるか確認しながら、作品として伝わる音へ整えていきます。



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