オーディション用の野外ライブ音源
シンガー活動されているクライアントから、オーディション用に使う野外ライブ音源の改善依頼がありました。歌唱力審査では作り込んだ作品より、ライブ音源の方が説得力があります。
リニアPCMレコーダーで録音された演奏はボーカルとギターのデュオ。どんなロケーションで収録されているかは解りませんでしたが、お申し込み時に「やや難のある音源」であることが明記され、細かく検聴したところ周期的に「ボオ〜」という、低音ノイズが混入していました。
野外ライブ録音や野外ロケで気をつけたい「風」
ノイズの原因をチェックしてたところ、演奏終了後の挨拶で「夏祭り」イベントのステージということを知りました。
なるほど、「ボオ〜」というノイズの正体は、風によるごく弱いマイクの「吹かれ」。この手の音源は客席のザワザワというノイズ処理が面倒なのですが、野外で反響がほとんどないため、さほど問題になりません。
この風によるマイク吹かれは「歪む」レベルまで強いものではなく、30〜100Hz周辺の帯域に乗っかったもの。同帯域で影響が出そうな楽器が収録されてないため軽いローカットを入れるだけでも一定の改善ができます。
しかし低域は音のパワーがある帯域。周期的に吹く風はそこが再生されるたびに「違ったギア」に入るような違和感があるのです。(小音量のスマホスピーカーなら気にならないレベル)
プラグインだけじゃないオーディオ・リペア
違和感を無くすため、ローカットだけではなく、オーディオ・リペアツールRXで混入部分を修復を進めます。瞬間的な「プチっ」「ズザっ」というノイズは対応したプラグインを使用した方が簡単に処理ができるのですが、風のように数秒続くノイズではその音が入っている場所を探し、ピンポイントで処理を加えます。
RXのスペクトログラムメーター(L-Ch) 選択された「風」の吹かれ低音部
上の図のように音成分がヴィジュアル化され、強い音が明るい色で表示されます。音程のある楽器や歌は音階とリンクして線のように表現されます。今回の風のノイズ成分は画像で選択されている部分です。風がない状態だと選択部分の左側のように少し色が黒ずんだ感じになります。(真っ黒は無音状態)
RXはメーター上の選択部分に様々な処理ができますが、上下左右の成分を解析してぼかすような効果が得られるSpectral Repair(スペクトラルリペア)というモジュールを使用することもできますが、今回はシンプルにボリュームをコントロールすることにしました。
このノイズ部分を-18dBほどヴォリュームを落とす処理をすると下のグラフのように変化します。かなり風が吹いていない時の状態と近くなりました
「風」の吹かれ成分をボリューム処理後(-18dB)
今回例に挙げた「風」のように歌やギターの演奏に影響しにくい低音域での処理は比較的楽に改善できますが、演奏帯域に思い切りかぶっているノイズ処理をするには様々なテクニックが必要になります。録音された音を改善するのはこのようなツールなどを使って、時には顕微鏡で分析するがのごとく、細かな音処理をすることもあります。
(追記2017)風吹かれノイズ除去専用のプラグインも登場
今まではピンポイント修復していたエンジニアも多かったと思いますが、最新(2017時点)のRX-6Advancedには風の吹かれを自動処理してくれる「De-Wind(デ・ウインド)」というモジュールが追加されました。上記サンプル動画を試聴してみてください。一気に風の吹かれノイズが軽減できます。
パラメーターは微調整できますが、極端に削れてしまうこともあり、映画などの演出として繊細な処理が必要な場合は、細かくピンポイント処理しないと自然には仕上がりません。
これらの修復技術ニーズがあり、野外ロケを伴うドラマやドキュメンタリー映画の整音作業もご依頼いただくケースが増えています。