プロアマ問わず音声修復をお手伝いしている山川です。年に何度かプロからご依頼いただく案件にピンマイクの収録漏れがあります。胸元につけるピンマイクはテレビ番組の出演者には欠かせません。くっきりとした太い声が収録でき、トーク中心の番組には欠かせません。しかし、ワイヤレスで使用できる便利さの反面、機器の電池切れや接続トラブルが稀に起きます。
機密保持の兼ね合いで具体的な公開できませんが、トラブルがあったのは教育系の番組。先生、アシスタント、視聴者視点のコメンテイター×2名、というキャストによる4名で構成されています。
それぞれの胸元にピンマイクが装着され、1名分のピンマイクだけが切れていたというトラブルです。
1名だけピンマイク素材が使えないと違和感満載
この収録はピンマイク以外に全体俯瞰を捉えるガンマイク素材が1系統。演者から少し離れた位置にセッティングされるので、部屋全体の響きを含めた音が収録されています。1名だけピンマイク素材が欠落すると、他の演者がくっきりとした声なのに、欠落した演者さんの声だけが部屋の響きを含んだ(遠い)音になり、違和感が満載です。無音ということはありませんが、他の演者がテレビクオリティのはっきりした声なのに、1名だけが素人撮影のようなオフマイクの音になってしまいます。
クライアントから「全体のガンマイク素材」を駆使して何とか他の演者の声に近づけられないか?とのご相談でした。
響きの多いガンマイク素材を切り出し音マイク風へ
①欠落対象者の声の抜き出し
②残響音の軽減
③ピンマイク風の声の太さを再現
上記が大きな処理の流れ、私のような修復のプロでも簡単ではありません。
①での切り出しも「対象者がソロではっきりコメントしている」対象部分と「ウンウンという合いの手」など重要度の低い、手を加えない部分を判断しながら編集すべき点を細かく抜き出していきます。もちろん、ガンマイクには他の演者の声も同じバランスで収録されるので会話がクロスする部分をどうするかの判断も重要です。
②諸々のノイズ除去に加え、残響成分を軽減するエフェクトで響きを削っていきます。iZotopeRXに搭載される Dialogue De-reverbやZynaptiq UNVEILなど、リヴァーブ除去系のプラグインを使用しますが、部屋の響きをかなり拾ったガンマイクをこれらだけで簡単にオンマイク風には改善できません。極端にエディットしてしまうと音が破綻してまうので、許容できるバランスに留めるとある程度の残響成分が残ります。
さらに③の太さを再現するためにコンプレッサー等のエフェクトを加えると②で軽減した残響成分が持ち上がってしまうので、 EQやエキサイター、トランジェント系のエフェクトなども加え、少しでも音マイク風の質感に近づける処理を施します。
問題ない他3名の声に残響を付け足す
ガンマイク資材からピンマイク欠落者のオンマイク再現を上記で最大限まで目指しましたが、やはり完全再現は困難です。そこで、問題なく収録できた他3名のピンマイクに擬似的に響きを足すことで、全体のバランスを取ります。
セリフのタイミングなどで細かく調整していきます。当方は映画作品の整音やミックス作業も日常的に行なっており、複数マイク素材を絶妙なバランスでブレンドするスキルに長けています。
別のピンマイク系トラブル修復事例はこちら
納品
修復を手がけた作品はTV番組ではないものの、旬の有名タレントが3名も出演していました。技術的ミスによる再収録などは難しいでしょう。意図した通りの収録ができればその内容には及びませんが、なんとか許容する状態に持っていくのがプロのリカバリーといえます。ハイブリッドサウンドリフォームでは他にも「こんなの無理だろ??」と、いう音声トラブルを数多く修復・改善しております。お気軽にご相談ください。
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