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執筆者の写真Sound Reformer / yamakaWA

NHKドキュメンタリーの音声修復(高難易度整音)をお手伝いしました

ノイズ除去専門家としてサウンドリフォーマーを名乗る山川@HSRです。今月、お手伝いしたNHKのドキュメンタリーが無事放送となりました。

NHK「Dear にっぽん」

日本各地の「いま」をひたむきに生きる人たちを見つめ、”大切なもの”をあなたに届けるドキュメンタリー

2024.6.6 放送回「花音と花歩〜障害のある役者が挑む世界〜」

役者を志す2人の若者、耳の聞こえない花音さんと車椅子生活を送る花歩さん。映画やドラマで広がり始める“当事者キャスティング”に挑む。演じる先に見つけたものとは。
エンターテインメントも多様な人材が活躍できる世界にー。障害のある役者を起用する、障害のある役をその当事者が演じる、新たなキャスティングが広がり始めている。耳が聞こえる人たちに囲まれ、手話を使わない環境で育った花音さんは、自分らしさをどこに見出すか役者像を模索。病気の影響で幼いころから車椅子生活を送る花歩さんは、起用された役に自らの人生を重ねて撮影に臨む。花開くことを夢見る2人の挑戦の日々。
2人の障害のある役者さんに密着したドキュメンタリー。日常だったりオーディションに向けて練習する日々など、あらゆるシーンにカメラが密着してリアルな心情を捉えています。

※番組紹介ページより引用

超絶技工を伴うドキュメンタリーの整音作業を担当

出演されている花音さんが親元を離れる直前、お母さんとの居酒屋でのシーン。こちらの1カットのみをお手伝いしました。番組ディレクターさんからポストプロダクション作業が開始する前の素材状態でご相談をいただきました。


夢を目指す娘さんを応援したい母親の気持ちが伝わる、心が動かされるシーン。当然、本編集に組み込みたい重要素材ということがすぐに理解できました。


しかし、収録場所が賑わいのある居酒屋だったため、店員さんの活気ある声出しや他の座席の盛り上がった会話ボリュームが大きすぎて被写体の2人の声がほとんどかき消されてしまうという問題を抱えていました。


ドキュメンタリー番組で使いたいシーンが使えない?

一聴して「これは無理」と判断できる厳しい素材。撮影素材をチェックしたディレクターさんが、一発で「このシーンは使いたい、でも使えないかも」と感じたのでしょう。NHKなら当然、国内でも最高レベルのポストプロダクションで静音や編集作業がされますが、このような素材は放送では使えない可能性が出てきます。


「番組全体の整音は放送直前に行いますが、編集を始める前にこの部分の音が使えるものにしたく(あるいは不可かの判断も含め)依頼させていただきました。」

このようなメッセージをいただき、高難易度の作業に挑みました。


リアル居酒屋の会話がカオスに絡み合う音声素材の整音


私は日常から素人が扱うボイスメモのノイズ除去なども手がけており、居酒屋での会話シーンを明瞭にしてくれというオーダーも珍しくありません。居酒屋での音源は例に漏れることなく騒がしく、お酒を飲んで気分が良くなった多くの人の声が混じりあります。隣の席の会話ボリュームが大きい場合も少なくありません。


現行のオーディオレストレーション(音声修復)技術では個々の人間の声を個別処理することができません。一般の方からご依頼いただくボイスメモ録音素材の場合、予算の兼ね合いも含め、あくまでも録音ファイル一律にノイズを軽減して、全体的な「ザワザワ」感を軽減。対象者の声にフォーカスする処理することで納品することが大半です。


ただし、コストに見合う場合は下記のような(ちょっと極端な事例ですが笑)音声をくり抜く作業もできないことはありません。



しかし、事例のように単発の言葉ならともかく、複雑に絡み合った居酒屋(しかも、対象者が周囲の声よりも小さい)は、対象者以外のほとんどの声を削り込む必要があり、超絶的な難易度です。率直に厳しいと感じたのもあり、素材確認後の初期メール返信も以下のように回答しています。


素材共有をありがとうございました。ざっとラフチェックさせていただきました。
第一印象としては「かなり厳しい」ですね。
人の声ごとの個別処理が技術上難しいので、
店内の大きな声(男性)の発声部分を絵画修復のようにくり抜くような合成処理や大胆な音声修復が必要になると思います。
ピンポイントで一言だけならまだ良いのですが、継続的かつランダムだと、流石に放送できるレベルには改善できないかもしれません。
実際に仮編集してみないと判断しかねますので、、、、、(続く)

結果採用に至った大きな理由

ディレクターさんがカット内の会話の文字起こしをしてくださったり、何度かの修正やり取りは行ったのですが、採用に至った最大の理由はやはり収録クオリティだと思います。ビデオカメラのオリジナル素材(MTSファイル)を共有いただいてましたが、やはりテレビ放送されることを前提としたカメラ機材は小型でも充分な性能があり、マイクやD/Aコンバーターなど、そもそもの素材クオリティが非常に高かったことが要因。スマートフォン動画素材だったら、音声も圧縮されて収録されている可能性も高く、間違いなくこの結果は得られなかったと確信しています。


まとめ

お手伝い素材は数分間ありましたが、本編集で採用されたのはほんの数十秒。それでも素敵なシーンが放送されて良かったです。おそらく地上波で放送されるコンテンツを仕事として手掛けたのは初になりますが、数十万単位で視聴される番組制作が1カットの細部まで丁寧に作り込まれてることを肌で感じることができ、貴重な経験でした。


少し難のあるドキュメンタリーとかでないとなかなかお手伝いできる機会は少ないかもしれませんが、またお仕事できたらなあ。お声掛けいただいたNHKのディレクターさんに心から感謝です。


このような高度な整音作業が必要なコンテンツを制作でのリカバリーや整音を幅広くお引き受けしております。弱小サービスですが国際映画祭でベストサウンドデザイン賞も受賞しており、技術レベルはワールドクラス(笑)。


お気軽にご相談ください。




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